ペルシャ絨毯の産地

ペルシャ絨毯の産地をご紹介

Introducing the Production Regions of Persian Rugs

ペルシャ(現イラン)は地域によってそれぞれ民族の文化があり、使う素材や色、デザイン、柄の特徴がそれぞれ異なります。
計19地区、イランの各産地ごとに特徴をご紹介します。

1. アルデビル ARDABIL

イラン北西部、カスピ海に近いアルデビルは、サファビー朝の祖先の出身地として知られています。
この地域の絨毯は、コーカサス絨毯に似た幾何学的な文様や、単純化された花の文様が特徴です。
絨毯には綿の地糸とウールのパイルが使われており、渋い赤色が特徴的です。

2. アフシャル AFSHAR

アフシャルは南ペルシアの部族で、トルコ起源の遊牧民から名付けられたアフシャル・ラグにその名を残しています。
これらのラグは木綿の地糸と羊毛のパイルを特徴とし、幾何学文様が主に用いられます。

また、ボテ(華やかなデザインの要素)、糸杉、生命の木などの文様も見られます。
一般的に、これらの絨毯はトルコ結びで織られています。

トルコ結びはこちらを参照

3. バクティアリ BAKTIALI

バクティアリはもともと部族の名前で、1867年にイルカーン(最高指導者)の主導の下で連合を結成しました。
その頃から、ザグロス山脈の東側、チャハルマハルやシュシタール地域で広範囲にわたってラグが生産されていました。
バクティアリ部族は、部族による手作りの作品と工場で製造された製品の両方を提供しています。

これらのラグは羊毛の地糸を基にし、植物染料で染めた羊毛のパイルを使用しています。
トライバルラグとして、キリム織りの鞍袋やバッグと共に有名であり、一般的にトルコ結びの技法が用いられています。

トルコ結びはこちらを参照

4. イスファハン ESFAHAN

イラン高原の中央部に位置する古都イスファハンは、テヘランから南に約400kmの場所にあります。
17世紀にシャー・アバスによって首都に定められたこの時代は、イスファハンの黄金時代とされ、サファビー朝の栄華を今に伝える宮殿や遺跡が数多く残されています。

イスファハンの絨毯はこの時代を通じて、世界で最も美しいものの一つとして高く評価されてきました。
特に有名なのは、シャー専属の工房で作られたいわゆる「ポロネーズ」絨毯です。これらの絨毯は通常、ヨーロッパの支配者への贈り物として製作されました。

現在も、熟練した織り手によってこの伝統は守られており、高品質の絹の地糸に羊毛のパイルを使用した美しい絨毯が製作されています。

5. カシャーン KASHAN

カシャーンはテヘランの南約300kmに位置する古都で、古くから織物製造の歴史があります。
この街で製作された有名な「アルデビル絨毯」は、現在ロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館に所蔵されています。

絹の織物で有名なカシャーンでは、見事なシルク絨毯も製作されています。
ウール絨毯では木綿が地糸に、シルク絨毯では絹が地糸に使用されており、結びにはペルシャ結びが用いられています。

ペルシャ結びはこちらを参照

6. カシュガイ QASHQAI

カシュガイは、ファールス地方のトルコ系遊牧民族であり、カスピ海方面からイラン西部に移り住んだ部族の名です。
彼らは、コーカサス地方に見られる幾何学文様が特徴のキリムを多く生産しています。

多くの遊牧民は定住化していますが、今も彼らは水平織り機を使用し、家畜の羊から採取した毛で糸を紡ぎ、植物染料を使用するなどの伝統を守り続けています。

カシュガイのラグには、動物や鳥、騎士、樹木などを素朴な形で描いた文様が多く見られます。
特に、三叉に分かれた幹を持つ生命の木の文様は多くのラグに使用されています。地糸とパイルの両方に羊毛を使用しているため、ラグは柔らかく、ラフなタイプが特徴です。

7. クム QUML

クムはテヘランから南に約120km離れた場所に位置し、シルク絨毯の代表的な産地です。
かつてはゾロアスター教の聖地でしたが、9世紀にイスラム勢力が強まると、シーア派ムスリムの重要な聖地となりました。

絨毯産業が発展したのは比較的新しい時期で、1930年代のことです。
当初、クムは新興の産地としてカシャーンから技術指導を受け、カシャーンやイスファハン、セネなどのデザインを取り入れていました。

しかし、1960年代には全てシルクで作られる絨毯の製作を始め、クムの絨毯はヨーロッパで一気に人気を博しました。
多くの有名な工房があり、それぞれが競い合うように独自のデザインを開発し、シルクの特性を活かした緻密で色彩豊かな素晴らしい作品が製作されています。

※ペルシャンギャラリー青山では、クム産のシルク絨毯を多く取り扱っており、非常に人気があります。

ペルシャ絨毯シルク

8. ケルマン KERMAN

ケルマンは、イラン中央部のルート砂漠の西南部に位置する町で、その周辺地域で製作される絨毯はケルマン・ラグと総称されます。
この地域の荒涼とした景観とは対照的に、ライトイエローをベースにチェリーレッドの美しい花の文様が特徴の絨毯が数多く見られます。

これらの絨毯は木綿の地糸と羊毛のパイルを使用して製作されています。
特にラバーの町で製作されたラグは品質が非常に優れており、「ケルマン・ラバー」として有名です。

9. サルーク SAROUK

サルークはイラン西北部、アラク地方に位置する織物と農業を中心とした村です。
この地方で製作される絨毯には、古典的なメダリオンや花模様が好んで用いられています。

特に、サルーク地方のラグは、珊瑚色の赤に独特のぼかしを施したものが特徴です。

10. シラーズ SHIRAZ

イスファハンから南に約500kmの位置にある、イラン南部ファールス地方の都市は今や観光地として有名です。
ここにはアケメネス朝の有名な遺跡「ペルセポリス」や、詩人ハーフェズやサーディーの廟があります。

ペルシャンギャラリーでは、この地域、特にシラーズ産の草木染めにこだわったギャッベを取り扱っています。
これらの商品は実際に店舗でご覧になることができます。

ギャッベ

11. セネ SENNAH

セネはイラン西部のクルディスタンに位置します。
この地域で製作されるラグには、何世紀にもわたってほとんど変化することなく、繊細な花模様が主流として用いられています。特に、メダリオンデザインの作品は珍しく、ほとんど先例がありません。

セネのラグ製作には、若い羊から採取された高品質のウールが糸として用いられ、植物性の染料を使って微妙な色合いを出しています。また、セネはキリムの生産でも知られています。

12. タブリーズ TABRIZ

タブリーズはイラン北西部、標高1,360mに位置する高原都市で、17世紀から絨毯生産の主要な地域として知られています。
この都市は夏は涼しく、冬は寒くて厚い雪に覆われる厳しい気候の中にありますが、古くから東西の交通の要所であり、ヨーロッパとの交易の中心地としても重要な位置を占めています。

19世紀には、タブリーズはイランの商業の中心地として、とりわけ絨毯産業で活躍するタブリーズ商人の存在が目立っていました。
輸出を主目的とした絨毯生産が中心で、織り手は男性が多く、特別な鉤針を使用することから、力強く整然とした美しい仕上がりが特徴です。

デザインはヘラティ(マヒ)やメダリオンが中心で、素材には地糸に綿を、パイルにはウールを使用し、一部には絹を用いたものもあります。
絨毯の製作にはトルコ結びが用いられています。また、絵画調の絨毯を得意とする工房も存在します。

13. ナイン NAIN

ナインはイスファハンに近いイラン中央部のオアシスの町で、かつてはアバスという伝統衣服の製造で知られていました。
しかし、西欧スタイルの衣服の流行によりこの産業は衰退し、織物職人たちはその技術を絨毯製作に転用しました。
その結果、ナインは緻密な織りのラグを生み出すことで、世界的に知られる絨毯産地となりました。

ナインの絨毯では、アイボリー系の地色を基調とし、ブルーやレッド、グリーンなどで細かい文様を描きます。
これにより、明るく落ち着いた色調が生み出されています。特徴的なのは、白い絹糸でモティーフの輪郭を取り、文様を際立たせる手法です。
素材には木綿の地糸と羊毛のパイルが使われ、ペルシャ結びが用いられています。

※ペルシャンギャラリーでは、特にナイン産のウールを多く取り扱っており、実際に商品を見ることができます。

ペルシャ絨毯ウール

14. バルーチ balouch

バルーチ族にちなんで名付けられたラグは、「マシャッド・バルーチ」とも呼ばれており、羊毛の地糸とパイルで織られています。
これらのラグはしなやかでラフな感じが特徴であり、敷物として人気があります。

デザインは幾何学的なものが多く、サイズは幅に対して長さがあるものが多いです。

15. ビジャール BIDJAR

ビジャールはクルディスタン地方の主要な町であり、第一次世界大戦中にはロシアとトルコによって占領され、戦後は飢餓に見舞われるなど苦難の歴史を持っています。
ビジャール製のラグは、結びの列が固く打ち込まれ、しっかりと締められているため、その堅牢さと重量感で高い評価を受けています。
デザインは主に花をモチーフにしたオールオーバーデザインが多いです。

16. ビルジャンド BIRJAND

コラサン地方にあるこの町は、クリーム色の地にヘラティ文様の絨毯を数多く製作しており、正方形に近いサイズの絨毯を製作する数少ない産地の一つです。

17. ベラミン VERAMIN

テヘランの近くに位置するこの地域は、渋い赤色が特徴で、単純な花柄のオールオーバー・デザインでよく知られています。特にヨーロッパでの人気が高いです。

18. マシャッド MASHHAD

この地域はイラン北東部に位置するホラーサーン州の州都であり、聖地でもあります。
色調は控えめで、古典的なメダリオン・デザインが一般的です。

素材としては、綿の地糸に羊毛のパイルを使用したものがありますが、シルクの地糸にシルクのパイルを用いた絨毯も見られます。

19. ヤズド YAZD

ヤズドはイラン中央部に位置し、ゾロアスター教徒が多く住む、乾燥した熱風と強烈な日差しが特徴の典型的な沙漠都市です。
この地域で生産される絨毯の量は少なく、デザインは華やかさに欠けるものの、織りは非常にしっかりしており、大変実用的です。
素材には綿の地糸と羊毛のパイルが使用されています。